1.女たちのニューヨーク(エリザベス・ギルバート)
1940年の初夏、老朽化した劇場を経営している叔母を頼ってニューヨークにやってきた19歳のヴィヴィアンは、たちまち粋で艶やかなショービジネスの世界の虜となってしまいますが、大女優の逆鱗に触れる大スキャンダル事件を起こしてしまいます。平凡で愚かな女の子にすぎないヴィヴィアンが、恋人も友人も居場所も失った後で自分と深く向き合い、新たな人生を掴み取っていく本書の主題は、現代にも通じる「新しい時代の女性の生き方」です。
江戸時代を通じて本藩である福岡藩の支配欲と、山国の小藩であるが故の貧しさという二重苦を背負い続けたのが筑前秋月藩です。史実をベースとして紡ぎあげられた本書は、苦難の中で大義を失わず、しかも現実的な解を求め続けた間小四郎という人物の生涯を見事に描きあげています。今年4月に訪れた小さいながら気高く静謐な城下町の印象は、本書の読後感と重なりました。
1980年代に描かれたコミックですが、『源氏物語』の世界を概ね忠実に視覚化し、若い人たちに古典への興味を開いた名作として知られています。2020年に完結した角田光代さんの現代語訳では「物語世界を駆け抜ける」ことができましたが、このシリーズは女性側の心理を、表情と言葉の両面で豊かに描きあげたことが特徴ですね。後に現代語訳を手掛けた瀬戸内寂聴さんから高い評価を受けたとの評判も頷けます。
【その他今月読んだ本】
・猫と漱石と悪妻(植松三十里)
・ブリット=マリーはここにいた(フレドリック・バックマン)
・広重ぶるう(梶よう子)
・ホテル・アルカディア(石川宗生)
・黄色い夜(宮内悠介)
・彼女の名前は(チョ・ナムジュ)
・リアル・シンデレラ(姫野カオルコ)
・イヌはなぜ愛してくれるのか(クライブ・ウィン)
・オランダ宿の娘(葉室麟)
・悪い麗人(堀川アサコ)
・銀行狐(池井戸潤)
・ある一族の物語の終わり(ナーダシュ・ペーテル)
・蒼天見ゆ(葉室麟)
・サイモン、船に乗る(ジャッキー・ドノヴァン)
・アメリカ最後の実験(宮内悠介)
・チンギス紀 15(北方謙三)
・当確師 十二歳の革命(真山仁)
2023/6/30