りぼんの読書ノート

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サピエンス全史 上(ユヴァル・ノア・ハラリ)

臆面もなく「賢いヒト」と自称する私たち「ホモ・サピエンス」の歴史には、どうやら不穏な秘密が隠されていそうです。およそ20万年前に東アフリカに現れたサピエンスの世界への広がりとともに、各地の大型動物が絶滅しているのです。それだけではありません。サピエンスは、世界各地で独自の進化をとげていたネアンデルタール人をはじめとする人類の兄弟姉妹たちのことも、地上から一掃してしまったのです。ではなぜサピエンスだけが独り勝ちできたのでしょう。著者はその理由を「認知革命」に求めています。

 

生物界における自然発生集団の規模は150人が限界だそうです。これを超えると個人的な関係は失われ、集団の秩序は安定を失って分裂するとのこと。しかし集団的虚構を認知する能力を獲得したサピエンスは例外でした。太古の部族や農耕社会も、古代の都市も、中世の教会組織も、近代国家も、世界帝国も、「共通の神話」の上に成り立っているのですね。

 

次に起こったのが「農業革命」でした。農耕は繁栄をもたらし、この時期に生まれた書記体系と神話はサピエンスの社会を拡大させていきます。やがてあらゆるものの交換を可能とした貨幣と、複数の民族に統一的な人間的秩序をもたらす帝国と、超人間的な秩序をもたらす宗教という、3つの大虚構が誕生したのでした。しかし繁栄の影では悲劇が起こり、秩序はヒエラルヒーの固定化と差別を生み出していきます。「文明は人間を幸福にしたのか」という命題に対する考察こそが、本書の真の目的なのでしょう。下巻では、現在も進行中である「科学革命」に続いて「サピエンスの次に来るもの」が語られていきます。

 

2023/7