りぼんの読書ノート

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サピエンス全史 下(ユヴァル・ノア・ハラリ)

著者は、サピエンスが発展してきた3つの過程とは、「認知革命」、「農業革命」、「科学革命」であると言い切ります。他の動物や人類の中でのサピエンスの優位を確立したのが認知革命であり、人口と富を増大させてグローバル化という方向性をもたらした源泉が農業革命であったのに対し、「科学革命」はさらに爆発的な変化をもたらしました。現在も継続中である科学革命期の500年間で、人口は14倍になり、生産量は240倍になり、エネルギー消費量は115倍になったのです。

 

著者は、科学とは「無知を認めること」と言い切ります。全知の存在を疑っていなかった時代には探求心は生まれず、進歩や発展という概念はなかったというのです。やがて帝国主義や資本主義と密接に結びついた科学はサピエンス社会を一変させますが、それはグローバルな支配と被支配の構造と、極端な貧富の差を拡大させるものでもありました。その結果として頻発した戦争や紛争で、被害を拡大させたのも科学の力であったというのは皮肉なものです。

 

いったい文明は人類を幸福にしたのでしょうか。幸福は進化や神秘に比例するのか、反比例するのか。それとも真実はその中間にあるのか。サピエンス以外のあらゆる動物や人類の兄弟たちの運命を考慮する必要はないのか。生化学の進歩は幸福感の定義を変化させてしまうのか。著者は、この問題に結論を出すには時期尚早にすぎると正直に答えます。しかしこれまでの歴史考察において欠落していた幸福の問題について問いかけたことが、本書の成果のひとつなのでしょう。さらに「サピエンスの次に来るもの」も極めて重要な問題提起です。直面すべき真の疑問は「私たちは何を望みたいのか?」かもしれないというラストの一文には、深く考えさせられました。

 

本書が、先入観や固定観念や常識を覆すような知的冒険をもたらす一冊であることは間違いありません。かつて同様の衝撃を与えてくれた『銃・病原菌・鉄』の著者であるジャレド・ダイアモンド氏が、本書を強く推薦していることも頷けます。

 

2023/7