2007年に『ミミズクと夜の王』でメジャーデビューした著者による短編種です。最初期の「15秒のターン」から、デビュー15年を経た現在の書下ろしである「十五年目の遠回り」まで、どの作品にも著者らしいみずみずしさが溢れています。
「15秒のターン」2008年
学園祭の真っ最中に別れを告げようとしている橘ほたると、呼び出された梶くん。彼女と彼の視点が交差する恋の最後の15秒に何が起こるのでしょう。疾走感に溢れた鮮烈な作品です。
「2Bの黒髪」2010年
浪人生活からも脱落しそうな須和子が細々とネットにアップしているのは、ダラダラとした精神状態を片影させた「巫女漫画」。自分が描いた漫画がゴミにすぎないと思った須和子は、漫画にどのような決着をつけたのでしょう。はからずも感動してしまいました。
「戦場にも朝が来る」2021年
高校を出たのに何もせず、ソシャゲという虚無にお金も時間を全てを投じたチョコとあめめ。1LDKアパートで築いた女2人の絆には未来はあるのでしょうか。この作品もラストで鮮やかなターンを決めてくれます。
「この列車は楽園ゆき」2022年
シングルマザーの母親から「ちゃんとしなさい」と言われて育ち、周囲からも浮かないようにして生きてきた茜子が唯一気兼ねなくつきあえた相手は、恋愛や結婚の対象とは思えない男性でした。この作品には自分を大切にすることの意味が詰まっているようです。
「15年目の遠回り」2022年
これもまた「鮮やかなターン」を描いた作品です。ただしターンが起こるまでに要した時間は15秒ではなく、15年。青春とは年齢のことではないし、一瞬とは時間や年月のことでもなさそうです。
2023/7