りぼんの読書ノート

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編集ども集まれ!(藤野千夜)

1985年から1993年にかけて出版社の漫画編集者として働いていた著者が、当時の出来事を自伝的に綴った作品です。雑誌連載時には「自伝的編集者ストーリー」との説明が付けられていたとのこと。

 

大学を卒業して神田神保町にある「青雲社」に就職した主人公・小笹一夫は、「週刊大人漫画クラブ」の編集部に配属されます。現実では「日本文芸社」の「週刊漫画娯楽」のようです。電話を取るたびに長い社名をうまく言えず、「大人漫画」とか「大人編集部」とか単に「大人」とだけ名乗る先輩に感激する場面は妙にリアル。顧客や上司や同僚たちと交流を深めながら経験を積んでいく過程は、どのお仕事小説でも必須の展開ですが、本書のケースはユニークです。なんぜ顧客とは皆、既に巨匠であったり後に有名になったりする漫画家や原作者たちなのですから。

 

梶原一騎つげ義春永井豪牛次郎郷力也いしかわじゅん山上たつひこ水島新司蛭子能収あんどという面々なのですから。もっとも青年向け雑誌なので、登場する作品名にはあまり馴染みはありません。隣の少女漫画雑誌部門に出入りしていた山岸涼子竹宮恵子萩尾望都大島弓子杉浦日向子、紫門ふみらの名前の方に懐かしさを感じる人の方が多いようにも思います。

 

しかしこれほどまでに漫画を愛していた著者は、ある事件をきっかけにして会社を辞めさせられてしまうのです。本書は、それから20年以上たって小説家に転じて芥川賞も受賞した著者が、この連載を執筆するために旧友と一緒に神保町を取材しながら過去を振り返るという形式で書かれています。その人物が「笹子」という女性であるのは決して間違いではありません。著者の略歴を知っている人はおわかりでしょうが、「小笹一夫」と「笹子」の間にある断絶が、彼が会社を辞めさせられた理由なのでした。既に男女雇用均等法も施行されれていた当時もまだ、このようなことが平然と行われていた時代であったことに驚かされます。そして少しずつではあるものの社会は変化し続けていることにも。

 

2022/6