りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

冷めない紅茶(小川洋子)

イメージ 1

ともに芥川賞候補となった、デビュー直後の中編2作が収録されています。

「冷めない紅茶」
「死」に共感を抱き続ける女性の視点から綴られる、幻想的な作品です。中学時代の同級生の葬儀で再会したK君の家を訪問した主人公は、彼の妻が中学校の図書館司書だったと知らされます。世俗的な男との同棲生活に満足していない主人公にとって、K君夫婦とすごすひと時こそが、心地良いものになっていきます、しかし、10数年ぶりに母校を訪れた主人公は、図書館は死者も出した火事で焼失したと告げられるのでした。「死」に結びついていくイメージが鮮やかな作品です。

「ダイヴィング・プール」
孤児院を経営する宗教者の娘である彩は、「家庭」でもある孤児院で唯一の「孤児じゃない子ども」でした。孤児院に溢れている「さまざまな不幸」に憧れて育った少女は、飛込選手となった幼馴染の少年を眺めることと、最近孤児院にやってきた幼女を虐待することに、喜びを感じるようになっています。しかし、少女の残虐な行為は、少年に知られていたのです。恋を打ち明けるように少女の秘密を暴く少年の口ぶりが、残酷極まりないものに思えてしまいます。

2014/6