りぼんの読書ノート

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興亡の世界史18.大日本・満州帝国の遺産(青柳正規編/姜尚中著)

1932年の満州事変によって誕生し、1945年の日本敗戦とともに消え去った満州国が、日本帝国の傀儡国家であったことは言うまでもないでしょう。「五族協和」とか「王道楽土」とか「八紘一宇」などの崇高な建国理念は、満州国誕生の正統性を主張するためでしかありません。しかしそのような美辞麗句や、一獲千金の夢を求めて渡満した人びとの中には、日本帝国の植民地として二級国民扱いされていた朝鮮人も数多くいたのです。後に戦後韓国で独裁者として君臨する朴正煕もそのひとりでした。

 

本書は、単に満州帝国の始まりと終わりを描いた歴史書ではなく、戦後の日本と韓国で絶大な影響量を持つに至った官僚政治家・岸伸介と軍人政治家・朴正煕という2人の人物のルーツを満州国に求めることを目的とした作品です。官僚主導による日本の高度成長も、開発独裁による「漢江の奇跡」も、満州国において試みられた国家社会主義的な経済統制政策をモデルとしていたのですね。後の新自由主義経済は両国における成功体験を過去のものとしてしまったようですが、国家統制的な政策はトランプの保護主義アベノミクスなどの形をとって何度も蘇ってきています。2人の直系子孫である安倍晋三朴槿恵がこの時代に登場したことも象徴的であるように思えます。

 

日本の傀儡国家であった満州国について、韓国の視点を交えて綴られた作品に触れるのは初めてであり、新鮮な体験でした。朝鮮半島に接する中国の延辺朝鮮族自治州(旧間島)は、もともと高句麗渤海の故地であり、古くから朝鮮民族が居住していたのですが、「満鮮一体」と唱えられた時期にも多くの移民が国境を越えたとのことです。もちろん日本における「内朝一体」と同様に、満州国の「五族協和」も虚構に過ぎません。多くの方が辛酸をなめ、現在に至っても解決の糸口すら見えない問題を残してしまったわけですが、その中から朴正煕と金日成が登場したことも特筆しておくべきでしょう。

 

2023/2