りぼんの読書ノート

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満州国演義6 大地の牙(船戸与一)

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前巻で描かれた南京事件に続き、徐州会戦、武漢作戦、広州占領、重慶爆撃と、日本軍の占領地域は全土に広がっていきますが、見方を変えればますます泥沼の深みに嵌っていく過程にすぎません。蒋介石に次ぐ国民党の大物・汪兆銘を抱きこんで傀儡政権を設立する動きも顕在化していくのですが・・。

一方、防御が手薄になった満州では、極東ソ連軍が国境を侵しはじめます。張鼓峰事件に続いてノモンハンで武力衝突が起こり、傘下の将軍や参謀に対する統制力を失った関東軍は大敗。石原莞爾も左遷され、「五族協和」の夢は輝きを失っていくのでした。そんな中で、独ソ不可侵条約が結ばれ、ナチスドイツのポーランド侵攻が起こります。

時代の動きの中で、敷島4兄弟の生き方も影響を受けざるを得ません。満洲国の高級官僚の太郎は、政治の実権を失い、時代の傍観者となっていくかのようです。元馬賊の次郎は無聊な暮しに飽いた結果、「殺し屋」に身を落としてしまったのでしょうか。ノモンハンの惨敗を目撃した憲兵大尉の三郎は、東北抗日聯軍の楊靖宇を執拗に追い続け、間垣徳蔵に操られて漢口で慰問所の開設に関わった四郎は、甘粕正彦が理事長を務める満洲映画に雇われて以前心惹かれた松平映子と再会し、肉欲に溺れていく・・。誰もが生きる目的を見失っていくかのようです。

国家に失望した時、人々が縋ったものは何なのか。本巻のテーマは、そういうことなのかもしれません。敷島4兄弟との比較において、満州ユダヤ人の避難場所としようと画策するフリーマンや、中国の混乱をインド独立の契機と捉えて手段を選ばないインド商人(名前を忘れました)の、まだ夢を失っていない行動が、むしろ魅力的に見えてきます。

内容的にも、時代の説明に大半が費やされてしまった感があって、少々期待外れだったかな。満洲731部隊の動きや、陸軍中野学校の設立や、内閣情報部が組織した「ペン部隊」や、「吉本笑わし隊」などのエピソードも登場しますが、本筋との関わりがはっきりしないので、消化不良感も残ります。

前巻から本巻まで、かなり時間が空いたようです。次巻の早い発売を期待。

2011/7