りぼんの読書ノート

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穴掘り公爵(ミック・ジャクソン)

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19世紀イングランドに、領地内に8本ものトンネルを掘らせていたのみならず、多くの奇行で知られていた公爵が実際にいたとのこと。本書は事実の上に虚構を覆い被せて、公爵の奇矯なふるまいの真相に到るというつくりの小説となっています。

リンゴの果実が生まれる謎に悩み、卒中で倒れた老僕を見て記憶を失うことを恐れ、怪しげな学者からオーラが失われつつあると言われて気に病み、骨相学や古地図に異常な関心を持った公爵の奇妙な世界観は、幼い頃の悲しい思い出が原因とされているのですが、忘れられた思い出の再発見が本書のひとつのテーマですね。

過去の出来事を記録から「発見」してから、彼の奇行は急速に進行します。そして、頭蓋という牢獄から意識を解放しなければならないとの切迫した思いに突き動かされて「頭蓋穿孔」を行ない、ついには命を落とすに至るのですが、彼にとってトンネルとは隠れ家だったのか。それとも牢獄だったのか・・。

「新潮クレスト・ブックス」初期の1998年に配本された、ちょっと変わったティストの小説ですが、なぜか「過去の小説」という感じがしてしまいます。「内に潜む狂気」というテーマは、もう「古い」のかなぁ。それとも、掘り下げ方が足りないのでしょうか。「時代性」との関連で書かれないと、必然性も迫力も感じられません。

2011/7