りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

赤と黒(スタンダール)

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本書を読んだことがない人でも、「美青年ジュリアン・ソレル」の名は聞いたことがあるのではないかと思います。ナポレオン失脚後の王政復古社会で、美貌と知力を武器に階級の壁を跳び越えようとした野心的な青年が挫折する物語。時は1830年、パリで起きた七月革命によってブルボン王制が再び妥当される直前のできごと。実際、革命直前に書かれた本書が発刊されたのは、革命後の11月だったのです。

かつてのナポレオン皇帝に憧れる山間の村の貧しい青年ジュリアンは、立身のため僧職に身を投じます。やがて地方貴族のレナール家の家庭教師に雇われると、富裕階級への反発から年上のレナール夫人を誘惑。ジュリアンも夫人との恋に溺れるのですが、不倫が発覚しそうになり神学校へ。

そこでも頭角を現わしてパリの大貴族のラ・モール公爵の秘書に推薦されたジュリアンは、今度は、彼を見下した美貌の公爵令嬢マチルドの征服を心に誓います。このあたりの「恋の駆け引き」にはうんざりさせられますし、ジュリアンの人格にも嫌気がさしてくるのですが、マチルドの妊娠が明らかになってからの終盤の盛り上がりは、名作の名に恥じません。

激怒した公爵でしたが、家出を決意したマチルドの覚悟に折れて結婚を認めます。しかし、ついにジュリアンの野望は叶えられたかと見えたその時に運命は暗転していくんですね。貴族の女性を踏み台にして出世をもくろんだジュリアンの野望は、女性の手によって覆させられてしまうのです。しかも罪を犯して捕えられた後に女性への真の愛情に気付き、自ら望んで死刑を受け入れていくという悲しい結末。

現代であれば「恋愛小説」にすぎない本書が傑作とされるのは、革命前夜の貴族階級の腐敗を描いたことのみならず、手段はどうあれ階級の壁を越えようとして失敗した青年の物語であるからなのでしょう。ナポレオンに憧れてはいたものの革命思想からは遠かったジュリアンでしたが、革命前夜の閉塞感を時代と共有していたのです。

そうそう、本書を「世界最初のサラリーマン小説」とする評価もあるそうです。

2013/3再読