りぼんの読書ノート

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桜の園/プロポーズ/熊(チェーホフ)

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わざわざ冒頭に「4幕の喜劇」と表記されているものの、貴族の没落を描いた表題作を「喜劇」と捉えた人は少ないのではないでしょうか。最近、三谷幸喜さんが新たなる希望で「チェーホフは喜劇」とぶちかました文章を読んで、あらためて再読してみました。

確かに、個々のセリフや動作は喜劇的なのです。浦雅春さんの解説にあるように「ボードビル的人間」たちが、大げさな言葉でかみ合わない会話を続け、すれ違いや無視や誤解を重ねていく様子は、喜劇としか言いようがありません。笑いが起きる場面も多いでしょう。

しかし、やはりこの作品は悲劇としか思えません。ラネーフスカヤ夫人は競売で家を失い、娘のアーニャもワーシャも、小間使いのドゥニャーシャも結局は誰とも結ばれず、桜の園を手に入れたロパーヒンは誰からも祝われないのです。皆から取り残された老僕フィールスが孤独に横たわってつぶやくラスト・シーンに至っては、本書を絶筆とすることになる著者の、死を前にした最後の言葉のよう。

それと比べると、プロポーズにきた男が意中の娘と口論になって心臓発作を起こしてしまう「プロポーズ」と、未亡人と借金の返済を求めにきたむくつけき男が互いに惹かれてしまう「熊」は、分かりやすい喜劇です。ブラックユーモアですけどね。

2014/7