りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/7 かくれ里(白洲正子)

今月のキーワードは「消え行くもの」とでも纏められるのかもしれません。日本の「かくれ里」も、中国奥地の少数民族も、さらには存在したことすら認識できない巨大知性体も皆、「消え行くものは美しい」のです。

科学ノンフィクション・ライターであるサイモン・ウィンチェスターさんの著作を2作続けて読みました。専門である地質学の分野にとどまらず、事象を総合的に捉えた作品となっています。しかもエンタメ性まで持っているのですから素晴らしい。

1.かくれ里(白洲正子)
日本が高度経済成長に沸いていた時代に、近江・京都・大和・越前の「かくれ里」を歩いて古典の美と村人たちの魂に深々と触れた紀行文集です。「かくれ里」とは、秘境と呼ぶほど人里離れた山奥ではなく、ほんのちょっと街道筋からそれた所にある真空地帯。全部は無理でしょうが、大阪勤務の間に何カ所かは訪れてみたいものです。

2.Self-Reference ENGINE(円城塔)
他者から観測されてはじめて存在を確認される世界で、「自己参照する巨大知性体」は存在しているのか。彼らが自然と一体化しようとして引き起こした「event」の結果生まれた、時間も次元もねじれて絡み合う多宇宙空間とは何なのか。さらに30次元も上位にある「超超超・・知性体」など認識しえるものなのか。演算戦、瞑想、神秘、喜劇、そして崩壊から消失へ向かう流れを俯瞰する連作短編集です。

3.アルグン川の右岸(遅子建)
ロシアとの国境の川を挟んで中国最北部で生きるエヴェンキ族の灯が、今まさに消えようとしています。森林は伐採され、原野に道路が切り拓かれ、トナカイの群れは鉄条網に囲われ、居留地への定住化が進められている中で、山に残ると決めた「最後の酋長の妻」が語り始めたのは、90年を越える生涯の物語でした。中国最北端の村に生まれた漢族の女性作家による、「深い悲涼感(物悲しさ)」に満ちた作品です。



2014/7/30