りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/2 アイの物語(山本弘)

上位に、新旧のSFをあげてみました。「物語」は人を楽しませてくれるだけのものではありませんね。「物語」を通じて様々な疑似体験を重ねることは、知性や感性のみならず、他者を理解するための想像力や、理解できないものを受容する寛容さすら磨いてくれるものなのかもしれません。
1.アイの物語 (山本弘)
機械に支配された未来で、アンドロイドが人間の青年に語る物語。それは、人間によって生み出され、人間を超えるものとなったAIが、人間の果たせなかった夢を引き継ぐに至るまでの、美しい物語でした。アシモフの理想も、ギブソンの世界も、手塚修虫の夢も引き継いで、この中に結実させたとも言える、独自の世界を築き上げています。

2.エンダーのゲーム (オースン・スコット・カード)
異星人からの攻撃によって存亡の危機に立った人類は、わずか6歳の天才少年エンダーに全ての期待をかけ、司令官養成プログラムを授けます。孤独感を味わいながら、シミュレーションゲームに勝ち続けるエンダーに最後に訪れたものは・・。日本のSFアニメの影響もあるのでしょうか。でもそんなことには関わりなく、SF史に残る傑作のひとつですね。

3.アナンシの血脈 (ニール・ゲイマン)
冴えない男チャーリーが、父親の葬式で驚天動地の事実を告げられる。!!!!!「あんたの父さんは神だったんだよ」!!!!!突然現れた、神の血を色濃く受け継ぐ双子の兄弟に婚約者を奪われ、生活をめちゃくちゃにされ、ついにチャーリーもキレるのですが・・。「物語」を楽しいものに変えたという、蜘蛛の神アナンシに感謝です。

4.春の戴冠 (辻邦生)
時代を象徴した画家サンドロ・ボッティチェルリを中心に据えて、花の都フィレンツェルネッサンスの栄光と没落を、描ききりました。失われゆくものだからこそ美しく、宿命的に脆くはかない「美」を、永遠にとどめようとした画家の苦悩は、時代の苦悩でもあったのです。1000ページ近い大作ですが、読み終えるのが惜しい本です。

5.名もなき毒 (宮部みゆき)
本書で取り上げられるのは、現代社会で人の心と身体を蝕む「毒」。土壌に潜む毒のように、ひっそりと埋もれたままで汚染を広げ、その存在に気付いた時には、既に手遅れになってしまう。不可解で強烈な悪意に遭遇した時、人はいかに無力な存在なのでしょう。作品の完璧さにかえって物足りなさを感じてしまうのは、贅沢でしょうか。



2007/3/2記