りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/9 ミノタウロス(佐藤亜紀)

月1冊のペースで読んでいた『世界の歴史シリーズ(J.M.ロバーツ)』を、最終10巻まで読み終えました。「現代に対する影響」の視点から編纂されたこのシリーズは、歴史は単なる学問ではなく、今この瞬間に起きている問題を理解するためのものであることを、実感させてくれました。

今月は、はじめて触れた著者の本に、佳作が多かった気がします。ゼーバルトジョナサン・キャロル、ヤスミン・クラウザー、三田完・・。読書の幅が広がるのは、嬉しいものです。これもブログの効用ですね。

1.ミノタウロス (佐藤亜紀)
人間を、人間としているものは、いったい何なのか。20世紀初頭のウクライナを襲ったロシア革命前後の混乱と戦乱の中で、 人間以外のものに成り果ててしまった少年たちの物語。どこにも救いのない乾いた物語は、いったいどこに行き着くのでしょう。

2.滝山コミューン1974 (原武史)
小学校教育に「平等と集団」を重視する社会主義的理論が持ち込まれ、「みんなのため」との美名のもとに、異質なものを排除していった時代。その当時小学生だった著者が、自らの記憶や同級生からのヒヤリングや当時の資料をもとに、時代の記憶を遺してくれました。「ひとりの手」の歌詞に違和感を覚えた方には、必読の一冊。

3.冬の犬 (アリステア・マクラウド)
スコットランド高地からの移民が多く住む、カナダ東端の厳冬の島。そこには、祖先の声に耳を澄ませながら人生を刻む人々や、鈍重ながら忠実な犬たちが暮らしています。「人生の美しさと哀しみ」なんていう宣伝文句が、これほど似合う小説はありません。珠玉の短編集です。

4.俳風三麗花 (三田完)
昭和初期、それぞれ異なる生い立ちや境遇でありながら、句会に集う若い女性たちの爽やかな友情と俳句にこめた想いとが、簡潔で余韻を残すような文章で綴られていきます。3人が友情を深めていく前半も、互いに身の振り方を考えていくようになる後半も、一編の句のように思われます。

5.サフラン・キッチン (ヤスミン・クラウザー)
40年前、イランからイギリスに渡り、そのままイギリス人と結婚して暮らしてきたマリアムには、イランに遺してきた想いがありました。娘サラは、イランへと向かったマリアムを追い、娘として、女性として揺れる母と向かい合います。「移民にとっての故郷」という重いテーマも底に流れている作品です。





2007/9/30