りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/3 大冒険時代(マーク・ジェンキンズ編)

3月は、奇想に満ち満ちたSF小説や幻想小説に「当たり」がたくさんあったのですが、それらを抑えて1位となったのは、『大冒険時代』。19世紀末から20世紀前半にかけて、まだ「大冒険」という言葉が生きていた時代の、冒険物語が持つリアリティの前には、空想も奇想も霞んでしまいます。

2冊ずつ読んだコニー・ウィリスやカードの作品は、少々小粒だったように思えます。

1.大冒険時代 (マーク・ジェンキンズ編)
ナショナル・ジオグラフィーに掲載された「世界が驚異に満ちていた頃の50の傑作探検記」。ラクダに乗ったり、山賊や海賊と遭遇する危険を犯したり、政府が禁止する地域に入ったり、アフリカ、南アメリカ、アジアの辺境のみならず、南北極や深海までを縦横無尽に旅行した、鮮烈な体験記の数々には、今は失われてしまった果てしないロマンを感じます。

2.哀れなるものたち (アラスター・グレイ)
著者が偶然手に入れた19世紀の医師の自伝に綴られていたのは、自殺した美女の生命を復活させて自らの妻としたという、驚くべき物語。果たして、その物語は真実なのか? 徹頭徹尾、「真実しか言わないし、書きもしない。嘘をつくとき以外は」との精神で綴られた大いなる「騙しの書」をお楽しみください。

3.神は沈黙せず (山本弘)
トンデモ本」を論破する「と学会会長」の著者が、「神の存在を論理的に検証した」小説。もはや科学では説明できない現象が頻発し始めたこの世界を「神の実験室」であると見抜き、「神の正体」に気づいてしまった主人公たちは、言い知れない恐怖と戦慄を覚えます。『百億の昼と千億の夜光瀬龍)』や、瀬名秀明さんのAIシリーズにも通じる面白さです。

4.蒸気駆動の少年 (ジョン・スラディック)
「鬼才スラディック」が描いた世界は、SFやミステリーやホラーというジャンルを超えてしまっています。どんどんエスカレートしていく発想が行き着いた先は、もはや「悪夢」という言葉でしか表現できないものかもしれません。23編の傑作短編がぎっしり詰まった、最初で最後の「ベスト・オブ・ベスト」です。

5.逆転世界 (クリストファー・プリースト)
「地球市」と呼ばれる巨大な都市が、レール上を移動し続ける。移動し続ける「最適点」を追って自らも移動し続けることが生存のために最優先される世界では、月も太陽もいびつに歪んでいました。ようやくこの世界の仕組みと理由を理解した瞬間に、全てがもう一度ひっくり返されます。やられたっ!




2008/3/31