りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

大統領の最後の恋(アンドレイ・クルコフ)

イメージ 1

ペンギンの憂鬱』で、ソ連崩壊後のウクライナの不条理世界を描いた著者の最新長編です。同じ新潮社クレストブックスから出版されました。

22歳の時に「できちゃった婚」したものの、子供は死産して離婚。それ以来、空しく悲しい恋を繰り返してきたブーニンが、あろうことか、できたての国のウクライナの大統領になってしまいます。といっても、決して政治的な話ではありません。これはあくまでも、1人の孤独な男性の物語であって、大統領としての職務や政治的な部分は、ロシア正教会レーニンを聖人に祭り上げて両国関係が悪化するなど、非現実的な「おとぎ話的」エピソードばかり。

3つの時代の話が、めまぐるしく場面転換を繰り返しながら進みます。1980年代。まだ、ウクライナ旧ソ連の一部であった頃。離婚後のブーニンは、まだ20代。定職にもつかず、色々な人々と関わり、もちろん女性遍歴も繰り返しながら、まったくの成り行きで政治の世界に足を踏み入れることになってしまいます。

2000年代。40代半ばのブーニンは、既にウクライナ副大臣。素晴らしい女性であるスヴェトラーナと結婚するのですが、またも死産で、再び失意のまま離婚。精神を病む弟の運命も、この時期に大きく動きます。

2015年。50代後半のブーニンは、なんと大統領。心臓移植をしたブーニンの前に「心臓の持ち主」と名のる女性が現れます。例によって、この女性とも「親しく」なってしまうブーニンでしたが、どうやら彼女は、政敵による政変のたくらみとも関係していそうなのです。今まで何も積極的に選択してこなかった、ブーニンの「最後の恋」とは?

どうして、主人公が大統領でなくてはならなかったのでしょう。先に、この物語は「政治的な話ではない」と書きましたが、ウクライナという国の「カフカ的矛盾」を「大統領の恋」という切り口でユーモアたっぷりに描き出そうとした本なのかもしれません。そう思うと、非現実的な政治エピソードのひとつひとつに意味がありそう。

3つの時代のストーリーが交錯し、ロシア的名前のわかりにくさもあって人間関係がわかりにくく、序盤はもたつきますが、後半は一気です。

2007/3