りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

墨攻(酒見賢一)

イメージ 1

前の週に、この映画を観たのです。酒見さんの原作によるコミックをベースに映画化したとのことで、オリジナルをどう変えているのか気になって、再読してみました。

「全ての人を分けへだてなく愛す」という兼愛・反戦の思想を持つ墨家集団は、中国各地で戦火に苦しむ人々を守るために、最先端の防衛技術を持っていたとされます。「墨守」という言葉はここから来ているとのこと。その一員である革離は、趙の大軍を前にして風前の灯の梁城を助けるため、単身乗り込みます。たった一人で梁城の民をまとめあげ、城の防御を固め、巷淹中将軍の率いる趙軍を相手に奮戦するのですが・・。

ベースとなるストーリーはオリジナルのままなのです。しかし重点の置き方の違いで、小説と映画は別のものになってしまいました。原作では、開祖・墨翟のエピソードを紹介するなど、墨子思想の解釈や変遷に重きをおいています。墨子思想が共産主義ファシズムを髣髴とさせる人民統制に繋がりかねない危険や、墨子思想が内包している矛盾に多くの説明を費やしているのです。その部分なしでは、タイトルが「墨守」ではなく「墨攻」であることが理解できないでしょう。

映画では小難しい個所は嫌われますので、そのあたりは全部省略。墨家集団の一員として個人的な愛情を抱くことがタブーとされている革離と、梁の騎馬体隊長を務める逸悦という女性との、恋愛感情の問題として集約しちゃってるんですね。浅い!

とはいえ、梁城を巡る攻防戦を原作よりも派手に複雑に描いていることに加え、男女関係の機微こそ「感情移入の王道」な訳ですから、これはこれで成功しているのでしょう。

2007/3再読