りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ゴッホは欺く(ジェフリー・アーチャー)

イメージ 1

ジェフリー・アーチャーさんは、飛行機に関してトラウマがあるのでしょうか。フライトの遅れによって、間一髪、間に合うかどうかというストーリーが、過去にもいくつかあったように記憶しています。本書では、9.11テロによって、アメリカ発着の全てのフライトが2日間凍結された間にロンドンへ向かう競争が序盤の山場になっていたり、主人公が国際線でどこに向かうかが重要なポイントになっていたりして、「西村京太郎かっ!」と突っ込みたくなってしまいます(笑)。

ルーマニアの独裁者だったチャウシェスクの資金を扱っていた男が、ニューヨークの銀行家に転身。もちろん悪役です。彼から資金を借りた者を破産させ、時には殺人まで犯して、借金のカタに名画を手に入れるという悪辣ぶりをみせるのですから。

美術専門家として銀行家に雇われていたアンナは、イギリスの伯爵夫人が罠に落ちつつあることを知って、伯爵家の「ゴッホの自画像」を銀行家の魔手から救い出すべく、雇い主の裏をかこうとします。イギリスからルーマニア、日本へと、世界中を飛び回るのですが、銀行家が送り込んだ女殺し屋と、FBI捜査官の双方から追われてしまいます。

稀代のストーリーテラーの新作ですが、以前ほどの切れ味はありません。せっかく9.11という舞台を設定していながら、主人公にWTCからの脱出劇を演じさせて行方不明とされた時間を稼がせるだけの使い方はもったいない。また、ゴッホが切り落とした左耳からの連想でしょうが、「左耳」に執着する悪役たちの動機も消化不良です。

印象に残ったのは、ナイフを使う凄腕の女性暗殺者の経歴でしょうか。ルーマニアの体操チームでオリンピック候補だったとの設定。小柄で細身の暗殺者に、若い頃のコマネチを思い浮かべてしまいました。紳士で礼儀正しい日本人の絵画蒐集家も、重要な役割を演じています。ひょっとして、日本人読者向けのサービスですか?

2007/3