りぼんの読書ノート

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ローマ人の物語15「ローマ世界の終焉」(塩野七生)

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15年にわたって、毎年1巻刊行された大シリーズが終わりました。このシリーズをリアルタイムで毎年の楽しみに読んでいたことを思うと、一読者としても感無量です。じっくり読ませていただきました。

誰しも言っていることですが、塩野ワールドの凄さは、近代的な視点を一切排除して、すなわち、キリスト教的史観や、フランス革命の理念や、現代日本の非戦平和論や、民族自決主義などのフィルターを通さずに、ローマの偉大さを論じきったことにあります。

現在読んでいる、オクスフォード大学の歴史教授による「世界史」が「ローマの後継者はキリスト教の教会であった」と述べているのとは、完全に異なっていますね。塩野さんによれば、初期キリスト教の持つ不寛容さこそ、ローマの精神と最も相容れないものなのですから。

では、塩野さんが見た「ローマの偉大さ」とは、一体なんだったのか。それは「多民族・多宗教・多文化が、ローマ法の下で共存共栄」できる「征服者を同化した寛容さと、合理的なシステム」にほかなりません。ローマ以降、そのような国家は2度と現れていないのです

最終巻の舞台となる5世紀、歴史の主役は、既に蛮族に移っています。アラリック(西ゴート)、アッティラ(フン)、オドアケル(スキリア)、ガイセリック(ヴァンダル)、テオドリック(東ゴート)・・。蛮族相手に連戦連勝を重ねて西ローマ帝国につかの間の栄光をもたらし、後世の歴史家から「最後のローマ人」と言われた将軍スティリコですら、父親を蛮族に持つ混血でした。

滅亡を前にして宮廷闘争に明け暮れ、スティリコやアエティウスらの名将軍を謀殺し、混乱に拍車をかけたラヴェンナの皇帝と側近たち。アラリックに略奪されて結婚させられた、皇女ガラ・プラキディアは気の毒だけど、解放された後に彼女が行った幼帝を戴いての統治はあまりにも狭量であり、ローマをいっそう弱体化させただけ。ブリティンも、ガリアも、アフリカも失い、イタリア本国の治安すら守れなくなっていたローマは、幼帝ロムルスが、既に宮廷の実権を握っていたオドアケルによって退位させられ、ひっそりと滅亡します。

キリスト教と一体化し、オリエント化した東ローマ帝国が仕掛けたゴート戦役が、ローマ的なものの残滓を全て消し去ってしまったことと、イスラムの勃興による地中海世界の分裂を記述して、本書は終わります。「ローマの精神」は、東ローマ帝国には引き継がれなかったのですから。

2007/3