りぼんの読書ノート

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神の熱い眠り(オースン・スコット・カード)

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「ワーシング年代記の第一部は不思議な雰囲気で始まります。少年レアドが暮らす辺境の村は、苦痛も不幸も恐怖も病気も存在しない世界だったのですが、一夜にして特権は消え去り、「普通の村」になってしまいます。その朝村に現れた男は、伝説の神と同じ名の持ち主であるジェイスン・ワーシング。彼はジャスティスという女性を伴っていました。そして2人はレアドに対して宇宙創造の秘密を語り始めます。

惑星キャピトルを首都とする文明が爛熟期を迎えたときに、いちど世界を「破壊」する必要を感じて実行した男アブナー・ドーンによって殖民団を率いて辺境の惑星に送り出されたジェイスンは、テレパス能力の持ち主でした。航海中の事故により植民者たちの人格を失ったジェイスンは、文字通り世界を作り上げたのです。1万5千年後の現在まで彼が生きているのは、時を掠めながら生きるかのようなコールドスリープ技術の成果なんですね。

ジェイスンと彼の子孫たちは、ひとたび文明を立ち上げた後は、異能力を隠すために「ワーシング農場」に籠っていたのですが、やがて分裂が起こり、邪悪な異能力者が現れ・・。しかしジェイスンはなぜ、この物語をレアドに語るのか。そして彼が伴ったジャスティスとは何者なのか。「無痛の村」とは何だったのか。全ての謎は、やがて鮮やかに解かれていきます。

壮大な物語であると同時に、それがレアドの成長物語となっている点が著者の真骨頂ですね。SFであるのみならず、悩める人間の物語なのです。本書は、著者が19歳のときの処女作を含む初期短編を長編として再構成した作品であり、エンダー・シリーズなどその後の著者の全てが、萌芽として含まれているようです。著者が序文で率直に語っているように、アジモフ銀河帝国の興亡』の影響も受けていますが、もちろん本質的には全く異なる物語です。

2013/10