りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/9 オール・クリア(コニー・ウイリス)

コニー・ウィリスさんの新作『ブラック・アウト』から続く『オール・クリア』がついに完結。他にもキース・ロバーツさんの古典的名作『パヴァーヌ』やケルスティン・ギアさんの作品など、タイムトラベルものを多く読んだのは偶然です。

先月、スコット・トゥローさんの新作『無罪』を読み、他の旧作を読み返してみました。今読んでもすべてが水準以上の法廷ミステリであるとともに、純文学の薫り高い作品です。一方で、先月読須賀しのぶさんや紅玉いづきさんのYA作品も楽しく読ませていただきました。日本のYAファンタジーは世界水準に達していると思います。日本は「カワイイ」だけじゃない!

1.オール・クリア(コニー・ウイリス)(上巻) (下巻)
戦時下のロンドンに送り込まれた、3人のオクスフォード大学の史学生が帰還できなくなった理由は、タイムトラベルを可能にしていた時空連続体の歪みのせいなのでしょうか。彼らが歴史を改変してしまったからなのでしょうか。二重の災厄の中でベストを尽くす彼らの姿は、被災下の人々と重なってきます。実生活で起こる災害には「種明かし」など期待できないのですが、意思の力を信じさせてくれる物語です。しかもラストが泣けるのです。

2.パヴァーヌ(キース・ロバーツ)
いわゆる「歴史改変もの」ですが、本書の「分岐点」は16世紀。エリザベス1世の暗殺によってイギリスがスペインに敗北した欧州は、20世紀を迎えても法王庁の下で自由も人権も抑圧されたまま。数世代にも渡って醸成されたカトリックへの反乱機運がイギリス全土に広がったときに何が起こるのか。ドラマティックでありながら叙情的な作品です。

3.ブランコ乗りのサン=テグジュペリ(紅玉いづき)
古き男性文学者の名を戴いた少女たちが集まるサーカス団。演目を任されて名前を襲名できるのは、曲芸学校をトップで卒業したエリートのみ。強い意志と執念でスターに上り詰めながら大怪我をした姉と、途中で身を引きながら姉の代役で舞台に立った妹の葛藤は周囲をヒートアップさせ、やがてサーカスを守るための少女たちの闘いに繋がっていくのでした。デビュー当時の桜庭一樹さんと雰囲気がカブるものの、楽しい小説です。



2013/9/29