りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/11 幸福の遺伝子(リチャード・パワーズ)

須賀しのぶさんの超大作少女小説流血女神伝」全25巻の最終シリーズ『喪の女王』を楽しく読ませていただきました。登場人物は類型的に思えたものの、独特の世界観に加えて、何より勢いがありました。

でも、今月の1位はやはり『幸福の遺伝子』でしょう。科学の到達点に真っ向から取り組んだ小説です。ラストは少々かわされた気がしましたので、年初に読んだ『エコー・メイカー』のほうが著者らしい作品のように思えましたが。

1.幸福の遺伝子(リチャード・パワーズ)
過酷な生い立ちにもかかわらず、いつも幸福感に満ちあふれ、周囲の人々をも幸せにしてしまう女性は、「幸福の遺伝子」の持ち主なのでしょうか。なぜ人々は幸福感を得たがるのか。そもそも幸福感とは何なのか。遺伝子は人間性を決定できるのか。これらの科学的な問いは、「創作者は自ら創作した人物を制御しえるのか」という人文的な問いと重なっていきます。読者もまた「安全地帯」にいるわけではないことに気づかされるラストまで、一気に読ませてくれる作品です。

2.人間のしるし(クロード・モルガン)
若き日の須賀敦子さんに影響を与えたという本書は、「知識人のレジスタンスの物語」であるのみならず、新しい男女関係のあり方に踏み込んだ作品となっています。妻クレールの信頼を取り戻すべくレジスタンスに身を投じた夫ジャンの姿を見て、妻はなぜ悲しんだのでしょう。自分の保守性と利己主義に打ち勝たなければならないのは、夫婦ともどもなのです。戦時中に理想を追う熱気も伝わってくる作品です。

3.琥珀捕り(キアラン・カーソン)
ベルファスト生まれの詩人による不思議な小説は分類不可能。父親が語ってくれた「冒険王ジャック」の不思議な物語、ギリシャ神話の変身物語、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの作品と贋作者の物語、17世紀のオランダ黄金時代を巡る蘊蓄、歴代の奇人たちの夢想と現実など、博覧強記で自由自在。いたるところに散りばめられた「琥珀譚」は道しるべなのか、目眩ましなのか。



2013/11/30