りぼんの読書ノート

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カエサルを撃て(佐藤賢一)

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紀元前52年に起きたガリア反乱を題材とした作品です。現存する唯一の資料である『ガリア戦記』を「勝者の記録」として退け、ガリア総督のカエサルと反乱者ウェルキンゲトリクスを対称的な人物として描き分け、2人の指導者の人間性の対決として史実を再構成した本書は、いかにも佐藤さんの作品らしい魅力に満ちています。

終盤まで光り輝くのは、光の神ルーゴスのように美しく残忍な青年ウェルキンゲトリクスです。、強力なリーダーシップと凄まじい戦略眼の持ち主は、小競り合いの勝敗を度外視して焦土戦術によってローマ軍を飢えさせ、本拠地ゲルゴウィアで大勝。ついにはガリア諸族を統合してアレシアでの乾坤一擲の決戦に臨みます。

対称的なのは、50歳近い中年男になったカエサル。ライバルであるポンペイウスへの劣等感に苛まれながら、現場よりもローマでの政治闘争と薄くなった毛髪を意識し、勝負勘も鈍くなっていてほとんど敗者のようなダメオヤジぶり。そんなカエサルを再び「燃える男」に変貌させたのは、若さへの対抗心だったのか。妻を奪われた恨みだったのか。それでもなお勝敗は紙一重だったのです。

著者の狙いは、後にルビコンを越えてポンペイウス元老院派との内戦に突入し、ついには地中海世界を制覇したカエサルの熱情と軍略が、ウェルキンゲトリクスとの戦いを通じて得られたものであったということにあるのでしょう。カエサルの変貌振りはそれほどに劇的であり、その意味で本書は成功しています。

半未開のガリア社会の丁寧な叙述と比較して、ローマ社会とカエサルの側の状況説明が些少なのは仕方ありませんね。本書は歴史書ではありませんし、ローマとカエサルについては既に多くの本で語られていますので。

2013/12再読