りぼんの読書ノート

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帝国の娘(須賀しのぶ)

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芙蓉千里シリーズで新境地を開いた須賀さんの初期の傑作流血女神伝の幕開けを飾る作品です。図書館では「児童向け」に分類されているライト・ノヴェルですが、あなどってはいけません。豊富な世界史知識を背景として作り上げられた世界観と、「少女大河ロマン」としての展開の面白さは素晴らしいのです。日本のライト・ノヴェルは世界水準だと思います。

ルトヴィア帝国北辺の山村で暮らしていた少女カリエが突然さらわれたのは、病弱なアルゼウス皇子の影武者として身体わりにされるため。カリエと皇子は瓜二つなのですが、そこには大きな秘密がありそうです。冷徹な教育係エディアルドのもとで礼儀作法から武術まで過酷な訓練を受けたカリエは、皇位継承レースのただ中に放り込まれます。ライバルは、優秀で冷静沈着なドミトリアス、優しく明晰なイレシオン、傲慢で感情的なミューカレウス。

血筋の点で王位に最も近いのはアルゼウスとミューカレウスでしたが、カデーレの皇子宮にはさまざまな陰謀が渦を巻いていました。その背景には、新興国家エティカヤの脅威が増す中で重税と不安にあがく国政改革をめざす家臣たちの焦燥もあったのですが、さらには諸外国の陰謀や古代の民も絡んできて・・。

隣国ユリ・スカナ王国の男装の麗人グラーシカや、古代の剣法を用いる謎の僧侶サルベーンらの役者も揃う中で、アルゼウスとミューカレウスを標的とする謀略が牙をむきます。その成否は? 黒幕は? アルゼウスの死とともに用済みとなるカリエが進むべき道は? そしてカリエの正体は?

盛りだくさんですが、全27巻の大作の端緒ですからやむをえません。ルトヴィアは中世ヨーロッパ風、エティカヤは勃興期のイスラム国家風、ユリ・スカナは改革期のロシアがモデルでしょうか。滅亡した宗教国家ザカールは、古代ローマギリシャケルトを融合した存在のよう。国家ごとの文化、経済、政治、宗教を描き分けて歴史的リアリティを強めながら、大地母神・流血女神ザカリアの圧倒的神話性を絡めた点がオリジナリティですね。全27巻・・読みましょうか?

2013/9


流血女神伝 第1部】
帝国の娘


流血女神伝 番外編】
女神の花嫁

流血女神伝 第3部】
暗き神の鎖