りぼんの読書ノート

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喪の女王 7~8(須賀しのぶ)

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全27巻を費やした流血女神伝シリーズ」がついに完結。この3ヶ月、楽しませていただきました。歴史小説のエッセンスを詰め込み、ラブコメのパウダーを振り掛け、しかも神々からの人間の自立というテーマで包み込んだ大河ファンタジーは、長さは圧倒的に違いますが、酒見賢一さんのデビュー作であった後宮小説のような読後感でした。

ルトヴィアの崩壊を食い止めようとして力尽きようとしている皇帝ドーンと皇妃グラーシカ。聖なる山の噴火をも意に介さずルトヴィアに進軍するエティカヤ王バルアン。母王を殺害してユリ・スカヤの王座についたものの軍部に操られるネフィシカ。戦乱は女神の意思なのか。激動の中で人々はどう生きるのか。カリエは人間の意志を信じ続けられるのか。

重いテーマであるため、ハッピーエンドとはなりません。というより、容赦のない展開が主人公たちを待ち受けています。疫病に倒れたサラと長女イエラ。街を封鎖する自国軍に抵抗する聖女オレンディア。病をおしてトルハーン海軍との戦闘に臨むギアス提督。幽閉される直前に自己犠牲の覚悟を固めたネフィシカ。故国の精鋭軍との決戦に挑むグラーシカとタウラ。革命の陰謀をあからさまにした宰相ロイ。そして皇帝ドーンは、軍服に銃を忍ばせて革命を望む民衆の前に立つのです。そしてカリエとエドは・・。

多くの犠牲を経て「人間の時代」が始まったかのようです。未来に希望を託せる予感に満ちたエンディングが、長い物語を締めくくります。ラクリゼが幻視した女神の最後の姿は、残虐さや妖艶さを振り捨てて、カリエとそっくりの少女キャラになっていました。カリエを失ったままのバルアンの末路は悲惨だったようですが、そこは息子アフレイムに期待しましょう。ユリ・スカヤはフィンルが継承することになるのでしょうか。

本書の後書きで「この物語が書ければもう、少女小説で書きたいものはありません」と言い切った須賀さんは、芙蓉千里シリーズでグレードアップを果たしました。叙事的な物語を書ける方ということはわかりましたので、次作ではもっと飛躍した姿を見たいものです。

2013/11