主人公は、スコットランドのエディンバラに住む、４０代前半の女性哲学者イザベル・ダルハウジー。離婚経験あり。哲学雑誌「応用倫理学レビュー」の編集長であり「日曜哲学クラブ」の主宰者なのですが、クラブは開催されたことがありません。真のクラブ員は、本書の読者たちなのかも・・。
ある晩コンサート会場で、若い男の墜落死を見てしまったイザベルは、目撃者としての責任を強く感じ、これまで培ってきた哲学的思考を駆使して真相を探ろうとし始めます。哲学者として倫理を重んじてきたイザベルとしては当然のこと。
しかしそこは素人探偵。証券会社に勤務していた犠牲者の同居人からの情報で、インサイダー取引の隠匿が動機ではないかと考え、ファンドマネージャーや、雌虎的な性格の婚約者を疑うのですが、証拠など見つけられません。その一方で、姪のキャットの交際相手のことも気になるし、もちろん毎朝のコーヒーとクロスワードパズルは欠かせない日課。果たしてイザベルは真相にたどりつけるのでしょうか。
カント哲学を批判しながらも、「自分ならどうするか」という「カント的命題」に嵌まり込んでしまうイザべラも魅力的ですが、スコットランドの伝統的価値観の持ち主である家政婦のジェイミーも魅力的です。学問などないけれど「世間知の塊」のようなジェイミー小母さんのほうが、ミス・ラモツエと似ているように思えます。ローカル色豊かで軽妙なミステリという点は、どちらにも共通していますね。
2013/9
