りぼんの読書ノート

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一路(浅田次郎)

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幕末期、中仙道を進む参勤交代行列ストーリーは、見事なロードノヴェルに仕上がっています。

屋敷の失火で焼死した父から家督を相続し、交代寄合蒔坂家の御供頭として江戸への参勤行列を差配することになった小野寺一路は、父から何も教わっていなかったため途方にくれてしまいます。焼け跡から見つかった家伝の古書を参考に「参勤道中は江戸見参の行軍」として古式に則っるとの方針を打ち出したものの、道中の宿泊予約も忘れているのですから、話になりません。

しかし、行列は思いのほか整然と進み出します。一路の父が、当主・蒔坂左京大夫の叔父による御家乗っ取り策謀の犠牲者と知って密かに手助けしてくれる者たちの存在や、御家存亡の危機を察して団結した家臣たちの協力が大きかったのです。それでも若い御殿様は、芝居狂いの噂も高い「うつけ者」。御家乗っ取りの企みも続く中、果たして一行は江戸まで歩みきることができるのでしょうか。

難題が次から次へと襲い掛かります。与川崩れの難所、吹雪の和田峠越え、御手馬・白雪の死、御殿様に過量の眠り薬を処方しようとする医師の企み、江戸城で同僚だった馬鹿殿からの無礼な仕打ち、加賀百万石のお姫様の一路への一目惚れ、江戸を目前にして御殿様の発熱、前の老中・牧野遠江守の行列との本陣差し合い・・。

この翌年に参勤交代が廃止され、数年後には幕藩体制すら消滅してしまうことなど、彼らは知りようもありません。仮に未来が見えていたとしても彼らは、今ここにある課題のために必死にお勤めを果たそうとしたのでしょう。バカ殿様の意外な名君ぶり。一所懸命さが意外な道を開いていく一路の奮闘。脇役たちの意外な活躍。彼らに共感して協力する者たち。

「幕末の参勤交代」と聞いたときには、悲劇的な結末を思い描いてしまったのですが、最後まで爽快感溢れる「浅田美学」の世界でした。先の見えない現代をどう生きるのか、その一例としても通じるものがあるようです。

2013/9