りぼんの読書ノート

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山彦ハヤテ(米村圭伍)

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歴史的な考証と奇想天外な発想を得意とする「現代の戯作者」米村さんによる新シリーズです。軽妙な語り口は相変わらず健在ですね。

台風で母親を亡くし、博打と酒に溺れた父親から捨てられ、入山禁止の天狗山でひとりで生き延びていた少年ハヤテは、山で行き倒れていたワケありの青年を助けますが、この人物、実は陸奥国折笠藩五万石の藩主・三代川正春だったのです。御家騒動の真最中の藩で、最も信頼していた家来からも斬りかかられた藩主が、命からがら逃げ延びた所だったのです。

正春が無事に城中に戻って家老一派の陰謀は頓挫しますが、今度は別の家老が美貌の女性を使って正春を籠絡しようと試みます。このあたりはセクシーで楽しいのですが、実子を藩主の座につけようと執念を燃やす義母は参勤交代で江戸に向かう正春に向けて刺客を放ちます。正春の「親友」となっていたハヤテと、正春が助けた狼の「尾ナシ」は、正春を助けて陰謀を打ち砕くことができるのでしょうか・・。

ハヤテの鎧職人への弟子入りや、江戸での父親との再会。正春と正妻や異母弟との関係など、いくつもの話が伏線となって結びついていく結構複雑なストーリーなのですが、語り口が軽妙なせいか無理なくスラッと読めてしまいます。

たくましい半面で世間知らずのハヤテと、心優しいものの優柔不断な正春と、もちろん無口ながら野性味と忠犬のような面を合わせ持つ「尾ナシ」とが、いいトリオでした。3人(2人と1匹)とも、「孤独」という共通点を持っていたのですから。『道草ハヤテ』という続編も出ています。

2013/4