りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/3 不滅(ミラン・クンデラ)

「新潮クレストブックス」から1冊、「白水社エクスリブリス」から4冊をまとめて読みました。どちらも優れた海外小説を翻訳して継続的に出版してくれる貴重なシリーズであり、新刊発行が止まっている「ハヤカワepiブックプラネット」のようにはならないで欲しいものです。ただ1位は、再読ではあるものの『不滅』にします。ミラン・クンデラさんの最高傑作であろう作品です。

『満州国演義』を書き綴っている船戸さんが、病を患っていらっしゃるとのこと。大作の完成を待つ気持ちは強いものの、まずはお身体を労わっていただきたいものです。
1.不滅(ミラン・クンデラ)
存在の耐えられない軽さ』における、「1回限りの人生の限りない軽さは本当に耐え難いのだろうか」との問いに対する、もうひとつの回答とも言える作品です。アニェスとポールの夫婦関係が崩壊へと至る本筋に加えて、ゲーテや、ベートーヴェンや、ヘミングンウェイや、マルクスらの物語が「不滅性」の通俗化を笑い飛ばしていきます。完成度としてはこちらのほうが上でしょう。

2.無分別(オラシオ・カステジャーノス・モヤ)
20世紀半ばに起きたグアテマラ先住民族虐殺の報告書を校閲することになった主人公でしたが、悲惨な証言を読み進めるに連れて強迫観念に囚われていきます。道化役のように滑稽な恋愛ですら、不安を鎮めてくれません。しかし、彼の不安は単なる妄想ではなかったのです。凄惨な状況を強調せずに、冒頭とラストの1文で押さえを効かせた手法が効果的です。

3.天使のゲーム(カルロス・ルイス・サフォン)
世界中で大ヒットした『風の影』に続いて、バルセロナの「忘れられた本の墓場」が登場する作品です。17歳の孤児ダビッドが、憧れの作家となるために支払った代償とは何だったのか。「ファウスト」のようなプロットですが、物語は現実と妄想の間をさまよい続けます。バルセロナに降りかかった真の罰は、内戦ではなかったかとの思いすら・・。

4.アンデスのリトゥーマ(マリオ・バルガス=リョサ)
アンデス奥地の村から姿を消した男たちの行方を追う警備隊員リトゥーマと助手トマスが見出したものは、魔術的な迷信と残酷な現実世界が交じり合った狂気の世界。それはまるで、原始バッカス信仰のよう。しかし、本筋と交互に綴られるトマスの純愛物語は救いに思えます。人々を狂気や暴力から救い出すのは「理性」ではなく「愛」なのかもしれません。

5.手紙(ミハイル・シーシキン
戦地に赴いたワロージャと、町に残された恋人サーシャの間のラブレターが織り成す物語・・と思いきや、2人の間には100年近い時間差が。本書は「時の流れが崩壊した」SF的世界の物語なのでしょうか。そもそもこれらの手紙は相手に届いているのでしょうか。しかし2人は強く言い切るのです。「届かないのは、書かれなかった手紙だけだ」と。やがて違和感は消え去り、2人の思いがストレートに伝わってきます。



2013/3/30