りぼんの読書ノート

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アンデスのリトゥーマ(マリオ・バルガス=リョサ)

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アンデス山中奥地のインディオの村ナッコスに赴任しているペルー治安警備隊のリトゥーマ伍長が遭遇した不思議な事件の物語です。あいついで姿を消した3人の男の行方を追うリトゥーマと助手トマスでしたが、無表情なインディオたちは非協力的で心を開かず、捜査は進みません。

彼らはアンデス山中で粛清を繰り返すテロリスト集団「テルーコ(土くれ)」の犠牲になったのでしょうか。それとも・・。永遠に終わらないような高速道路の建設工事に携わるインディオたちを酔わせる邪悪で陽気な酒場の主人ディオニシオと、彼の妻で精霊をあやつる魔女といわれるアドリアーナの2人は何かを知っているようなのですが。

この2人の名前はギリシャ神話に登場するディオニソスバッカス)神とアリアドネから採られています。著者は、酒神として知られるものの集団的陶酔と狂乱として現れるバッカス信仰を、アンデス奥地に潜む魔術的迷信や、残酷な現実世界と重ね合わせているのでしょう。人々を狂気の暴力に誘うきっかけは、テロリストの強制だけではありません。事実、終盤で明らかになる真実はおぞましいものでした。

このメインストーリーに重ね合わせて、助手トマスの若き日の過去が語られていきます。麻薬密売人のボディガードとして雇われながら情婦メルセーデスをいたぶるボスを殺害してしまい、彼女を連れて逃避行に出たトマスの心に芽生えた感情は「純愛」だったのか。果たしてトマスの恋は報われたのか。このくだりは楽しいですね。結局、人々を狂気や暴力から救い出すのは「理性」ではなく「愛」なのかもしれません。

本書の主人公であるペルー治安警備隊の伍長リトゥーマは『緑の家』にも登場する人物とのことですが、彼の名前は記憶にありません。再読が必要かも?

2013/3