交互に進展する2つの物語が交差する中で、最後に浮かび上がってきたテーマは「家族」だったようです。縁を切ることができない家族関係とは、複雑で、面倒で、悩みの種であるとともに、やはり素晴らしいものなのです。
奇数章の主人公は、ペルー北西部にあるピウラで運送会社を営むフェリシト・ヤナケ。「リスクを負いたくなければ毎月500ドル支払え」という脅迫状を受け取ったフェリシトは、脅しに屈することなく警察に届け出たものの、本気にされません。やがて2通目、3通目が届き、ついにはフェリシトの愛人が誘拐される事件が起きます。
偶数章の主人公は、首都リマの保険会社の重役ドン・リゴベルト。オーナー社長イスマエルが、年の離れたメイドのアルミダと結婚する証人を引き受けさせられ、遺産を相続できなくなったダメ息子たちが起こした裁判巻き込まれてしまいます。
誰もが家族の関係に悩んでいるのです。フェリシトは長男が自分の息子かどうか自信を持てず、「できちゃった婚」だった妻との関係も、ずっとスッキリしないまま。リゴベルトは、溺愛する息子フォンチートが「誰にも見えない男」から話しかけられる問題を理解できないでいます。そもそもイスマエルが結婚を決めたのは、ダメ息子たちが父親の死を願っていることを聞いてしまったからでした。
やがてフェリシトを脅迫した意外な犯人と、アルミダとフェリシトの意外な関係が明らかになり、登場人物たちは互いに接近するのですが・・。
ノーベル賞受賞後に初めて書かれた小説だそうです。よくできてはいるのですが、緊張感に欠けるように思えるのは、『チボの狂宴』や『アンデスのリトゥーマ』のようなブラック・リアリズム小説を期待してしまったせいでしょうか。ちなみに、ピウラ出身の警官リトゥーマ軍曹は、本書にも登場しています。
2016/4