りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

末裔(絲山秋子)

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帰宅したら鍵穴が消えていたという奇妙な理由で、誰も居ない家から閉め出されてしまった定年間近の男は、それ以前に「家族」も失っていました。妻は4年前に病死し、嫁の言いなりの息子は実家に寄り付かず、娘は家を飛び出してしまった後は、毎日が一人暮らし。

それだけではありません。息子夫婦は不妊だし、娘は結婚する気もなく、「この家系は絶える」という実感も日に日に大きくなっていたところで、ついに「家」からも見放されてしまったのです。

帰る所を失った男のプチ放浪が始まります。不思議な占師から勧められたホテルから、亡くなって久しい伯父の家へ。そして父や伯父の故郷の町へと。そんな中で男は、父や伯父の世代が持っていた教養に懐かしさを覚え、息子や娘に対して理解を示すように努め、要するに「家系」という流れに身を置いて、自らの来し方・行く先に思いを巡らせるようになるのです。

やがて男の周囲でプチ奇跡が起こり始めます。伯父の家で娘と出会って和解したり、アメリカへ行ったまま音信不明だった弟は帰国して結婚するというし、その弟の結婚相手が意外な人物だったり・・。家の鍵穴はまだ消えたままですが、男は「家族の絆」を取り戻すのかもしれません。ひょっとしたら男の息子や娘は「最後の末裔」でなくなるのかもしれませんしね。

「結婚しない女」も「子どもを持たない夫婦」もとうに当たり前になっている時代ですが、「家系が絶えること」の意味を考えてみる必要はあるのでしょう。自分の人生をそんなことに引きずられる必要はないのだとしても・・。ただ、男に話しかけてきた犬の「七福神」の話は理解できませんでした。

2012/11