りぼんの読書ノート

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夏の海の色(辻邦生)

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シリーズ第2巻では、エマニュエルの渡米によって自由な恋愛に区切りがつく「黄の場所からの挿話」の後半と、成長した少年が幼年時代に終わりを告げるまでの「赤の場所からの挿話」の後半が綴られます。

【黄の場所からの挿話】
「8.泉」 チロルの村に滞在した青年は、見晴らしの良い山小屋が空き家となっているのは、かつての住人で絵描きのマルティン・コップが手首を切られて殺害されたためと聞かされます。それは、スペインから脱出する飛行機から指を切られて振り落とされた書店店主の父の復讐だったのでしょうか。

「9.夜の歩み」 エマニュエルの遠縁にあたるアントワーヌ・ブリュネが大切にしている組合員証にはフィリップ・ムーランの名前がありました。彼は同士フィリップの妹ルイーズと結婚したものの、不貞を働からて去られた過去があったのですが。

「10.凍った日々」 南ドイツの小都市で旧友の根室と再会した主人公は、かつての下宿先のマイヤー氏の弟の死を知らされます。作家だった弟は、マイヤーが愛したヘルガと結婚していたのですが。

「11.古い日時計 かつてエマニュエルが預けられていた南仏の小さな村で出会ったブリネ神父は、殺人犯をかくまったのでしょうか。妻の前の亭主を殺害した男には、どんな過去と理由があったのでしょうか。

「12.海峡」 エマニュエルの学友ウタ・シュトリヒが住む北国の町を訪れた2人は、連絡線の船長だったウタの父が自殺したと聞かされます。パリの政治運動やスペイン内乱に参加したというウタの父は、海峡の安逸な生活に生の意味と重さを見出していたと思えたのですが。

「13.吹雪」 エマニュエルのアメリカ留学が決まり、主人公は離れて暮らすことに焦燥を感じます。クリスマス休暇をチロルですごした2人は、アメリカ帰りの演出家ルネ・ブロックが彼の娘と名乗る女性の訪問を受けたと聞きますが、その女性は昔の同棲相手ジュリアの娘だそうです。

「14.ル・アーヴル午後5時30分」 エマニュエルがアメリカに出発します。主人公は、男を15年待ち続けたというホテルの掃除婦マルトの話を聞くのですが、2人の将来に漠然とした不安を感じます。

【赤の場所からの挿話】
「8.河口風景」 伯父の家に世話になった主人公は、伯父とは血の繋がらない娘・加奈が夜に水泳を教えてくれるというので喜びますが、それはデートの口実でした。伯父の怒りにはどんな意味がったのでしょう。

「9.夏の海の色」 主人公は中学に入って剣道を始め、叔母の家に世話になります。10歳上の従姉妹の咲耶に心惹かれますが、彼女には離婚後に息子を海で亡くしたという過去がありました。

「10.水の上の顔」 バロンを名乗る大沼直樹と知り合います。大沼は撞球場の女主人に恋情を抱いていたのですが、主人公は彼女から弟のように慈しまれます。

「11.祭の果て」 主人公は退院した母と一緒のに国語教師の安藤の家の離れに住み始めるのですが、安藤は突然失踪してしまいます。その背景には、安藤の妻と叔父との関係があったのでしょうか。

「12.彩られた雲」 叔父の引っ越し先での同居を始めた主人公は、足の悪い美少女・鬼塚冴に心惹かれます。アメリカで社会主義を教える学者を父に持つ友人・真岡の妹は、冴に悪意を示すのですが・・。

「13.月の舞い」 父親が役所を辞めて当分帰国しないという知らせが母子にもたらされます。母子は、父が世話になった桜田家の未亡人・八重の別荘に住んでいたのですが、八重の死という悲報がもたらされます。

「14.雷鳴の聞える午後」 叔父の友人である南部修治の婚約者・伊根子が、主人公に託した赤い風呂敷包みは、社会主義者への弾圧を避けるためのものだったのでしょうか。

この時点では「赤」の少年と「黄」の青年が同一人物であるかのようにも思えますが、実は親子なんですね。後に明らかになってきます。

2013/1