りぼんの読書ノート

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ロジー・カルプ(マリー・ンディアイ)

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カリブ海のリゾート島、グアドループに降り立った子連れの白人妊婦ロジー・カルプ。フランス本土での暮らしに疲れ、この地で成功を収めているという兄ラザールを頼って一文無しでたどり着いたのですが、迎えに来るはずの兄は一向に姿を現しません。やがて彼女らを迎えに来たのは、身なりのよい黒人青年ラグランでした。

実はラザールは落ちぶれていて、裕福なラグランに頼り切った生活をしているのですが、それだけではありません。イカレた仕事仲間が起こす犯罪にも関わってしまいます。「イカレている」という意味では、ロジーとラザールの両親もひどいのです。母のディアーヌは、少女のような若作りをして愛人を作り、年甲斐もなく身ごもっていますし、父親のフランシスは、そんな妻と愛人の生活を見てみぬふり。

そして、イカレた家族の全員から、一番イカレていると思われているのがロジーなんです。ロジーには、貧困、私生児、生気のない顔、張りのない身体・・と、哀れで惨めな娘の条件が全て揃っていて、家族の誰からも見捨てられているのに、一番頼りにならない兄のラザールに全てを託しているのですから・・。

もっと惨めなのが、母親のロジーからも見捨てられかけている、息子のティティ。まるでロジーは、「失敗した子どもさえいなければ、新しい子どもとやり直せる」とでも思っているかのよう。このあたり、母のディアーヌとも共通しているようです。

ところがラグランは、そんなロジーに恋してしまいます。それは、「絶望的なほど運命に弄ばれ、果てしなく運に見放され、見捨てられた」女性に対する同情なのか、裕福な黒人青年が貧しい白人女性に対する優越感の顕われなのか、彼自身不幸な母親を持っていたことと関係しているのか、それとも・・。果たしてラグランの恋はどうなるのでしょうか・・と言いたいところですが、本書ではそれは重要なテーマではないようです。

読みようによっては、聖母子を象徴とする宗教へのアンチテーゼとも、フランス本国と植民地の関係を象徴するものとも、失敗作をなかったことにする現代民主主義もしくは消費者への皮肉ともとれるのですが、一元的な読み方をしてはいけないのでしょう。独創的で、重層的で、謎めいた作品です。

2010/6読了