りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/5 T・S・スピヴェット君傑作集(ライフ・ラーセン)

山田風太朗さんの『明治小説シリーズ』を読み終えてしまい、楽しみがひとつ減ってしまったように思えたものですが、まだまだ素晴らしい作品がありました。明治維新に先駆けた水戸天狗党の乱の顛末を描いた『魔群の通過』も悪くありませんでしたし、滝沢馬琴の生活を「実」とし、彼が生み出した物語世界を「虚」としながら、ラストで虚実が冥合するにいたる『八犬伝』は最高でした。ただし、「山田版八犬伝」の面白さの半分くらいは原点の『南総里見八犬傳』そのものにあるとも思えましたので、次点におきました。

1位にあげた『T・S・スピヴェット君傑作集』は、膨大な図版や地図を絡めながら、アメリカ北西部から東部までを旅する少年の心の動きを描いた、野心的な作品です。サッカーに関する本を2冊読んだのは、もちろんワールドカップ観戦に備えてのこと。^^
1.T・S・スピヴェット君傑作集(ライフ・ラーセン)
皆から愛されていた弟を事故で亡くした責任感に苦しんでいた、モンタナの牧場に住む図版制作の天才少年が、両親のもとを離れてワシントンまで一人旅をした末に、両親の愛を再発見する物語。ページ余白にぎっしりと書き込まれている傑作図版やコメントに少年の心のつぶやきが現れ、やがて客観的に旅の様子を綴る本文と融合していきます。

2.千の輝く太陽(カーレド・ホッセイニ)
不義の子として生まれたマリアムは、一族の恥としてカブールの高齢の商人に嫁がされ、彼女の生活は闇に包まれます。20年後、戦火の中で家族を失った聡明な少女ライラと心の絆で結ばれたマリアムは、やがて彼女のために文字通り、命を捧げることに・・。アフガニスタンの女性の将来に一筋の明るさを見出したかのようなエンディングですが、それが確固たるものとして現実となる日はまだ遠いのでしょうか。

3.須賀敦子を読む(湯川豊)
『コルシア書店の仲間たち』と『ヴェネツィアの宿』の編集者だった方による「須賀敦子論」。自伝的要素を多く含みながら、「自我」を押し出す日本風の私小説でも、「感性」の鋭さを誇るエッセイでもなく、自分にも他者にも「絶妙の距離感」を保っている独特の品格は、どこから生まれてきたのでしょう。須賀さんファンには必読の解説書だと思います。



2010/5/31記