りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

蟻(ベルナール・ウェルベル)

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奇想の書です。アリが文明を築いていて、人類とファースト・コンタクトを果たすというのですから。

死んだ伯父が遺してくれたパリ郊外のアパートに移り住んだウェルズ一家は、地下室のドアに書かれた「立入厳禁」の文字に気づきます。誘惑に抗しきれずに地下へ降りた父親が、次いで妻が、息子が、さらには救助隊までもがそのまま姿を消してしまいます。地下にあったものは、果たして・・。

一方フォンテーヌブローの森では、赤アリが王国を築いていて、宿敵の白アリや小型アリと長い間死闘を繰り広げていました。ところが、一匹の若き雄アリは、王国内部にスパイが入り込んでいることに気づきます。雄アリは巣立とうとする寸前の女王の娘アリを巻き込んでスパイたちと闘うのですが、彼らは外部のスパイではなく、女王が隠している重大な秘密を守るための親衛隊だったのです。

アリの世界が見事に描かれます。とりわけ、赤アリと小型アリが衝突した「ケシの丘の戦い」で、尻から蟻酸を吹き出す砲兵隊や、巨大な顎を持つアリを6匹の戦闘アリが支える戦車や、寄生キノコの胞子を利用した細菌兵器が登場する場面は、抜群の描写です。「地の果て」を極めようとする兵隊アリが、フォンテーヌブローの森の外へと決死の冒険を挑むエピソードもいいですね。

アリは「匂い」を用いてコミュニケーションをはかっているようです。アリが発する化学物質の組み合わせ次第では、複雑な内容の交信も可能なのでしょうか。ここまで複雑な「会話」となると現実を超越しちゃってるのでしょうが・・。

本書は三部作となっています。アリは無政府主義でも全体主義でもなく、人間の理解の外にある文明を築いているものの、化学的手段を用いて異文化コミュニケーションは可能であるとした「奇想のシリーズ」が、行き着く先はどこなのでしょう? アリの文明との対比から浮かび上がってくるのは「人類そのもの」のようにも思えます。

2010/6読了