りぼんの読書ノート

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蟻の革命(ベルナール・ウェルベル)

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地上で社会生活を営む2大生物である人間と蟻が、互いに相手の存在を「発見」して手探りで共生を試みるという「奇想シリーズ」の完結編。

アリの側では、あの103号が引き続き主役を務めます。第1巻では「世界(フォンテーヌブロー公園)の果て」まで遠征して人間と出会い、第2巻蟻の時代では蟻十字軍を率いて人間に闘いを挑んで簡単に敗れ去ったものの人間と共に暮らして人間の世界を深く理解した103号は、ロイヤルゼリーを摂取して働きアリからプリンセスへと変化を遂げ、人間との交流をはかる勢力を築き上げます。ただしその過程で、古巣の旧勢力や、人間を神として崇拝する勢力と対決しなければなりませんでした。これがアリの側での「指革命」(アリは人間を指と呼ぶんですね)。

一方で人間の側では、故エドモン博士が残した謎の本「相対的かつ絶対的知の百科事典」の第3巻を、森の中で偶然入手した女子高生ジュリーらが、群集を先導して高校に立てこもり、自由なコミュニティーを築こうと試みます。これが人間の側での「アリ革命」。レーニンの革命が「ソビエトと電気」によるのなら、新しい革命は「アリの精神とネット」!

でも人間の側の革命は、アリのようにはうまく進みません。あえなくコミュニティーを潰されたジュリーらは、第1・2巻の登場人物で、やはり故エドモンの「百科事典」で蟻との交信を学んだジョナサンやレティシアらと出会い、彼らを罪に問う警察を相手に法廷闘争を開始します。103号が翻訳機械を介して、裁判の証言台に立つに至るのですが、果たして人間とアリの共生は可能なのでしょうか。

前2巻と比較すると、衝撃度が和らいでしまいました。アリの世界に火や宗教が持ち込まれて社会が変化していく様子は、シュミレーション・ゲームのようであってもそれなりに迫力ありましたが、人間の側での「アリ革命」が「子どもの遊び」の水準なのが辛かったですね。アリの社会に着目し、匂いを使った会話に成功するとの奇抜で非凡なな発想は、卓越していたのですが、ラストが少々尻すぼみであったのが惜しまれます。しかも、第3巻だけで800ページは長い!

2010/9