りぼんの読書ノート

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東京島(桐野夏生)

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岸本佐知子さん編集の変愛小説集2に収められている「彼氏島」という作品は、イケメンの原住民だけが住む島に漂着して逆ハーレム状態になったギャルの悲喜劇がテーマですが、この作品の清子の場合はもっとシリアスです。

夫とのクルーズの最中に暴風雨に襲われて漂着した無人島に、その後、与名国島のバイト先から集団で逃げ出した日本の若者たちと、移民途中で棄てられたとおぼしき中国の若者たちが次々と漂着。いつまで待っても救助船など来ず、夫の隆は衰弱死。女性1人に男性31人という極限状態で何が起こるのか。

清子の年齢は40代半ばで若者たちからみたら「オバサン」ですが、そこは唯一の女性。さぞエロスたっぷりの「女王様状態」が続くのかと思いきや、中国人たちがドラム缶で作った筏で抜け駆けの脱出を試みて失敗した途端、女王の座から転落してしまいます。

生に執着する者、気力を失う者、欲望をあらわにする者、壊れていく者・・。閉鎖された空間でむきだしにされる人間模様が行き着く先は、どこなのでしょうか。

かなり実験的な小説ですね。でも、前作のメタボラで描かれた「下流社会を彷徨う若者たち」の生態を追跡する作品でもなく、次作の女神記とも関わるような「女神伝説」と展開するわけでもありませんでした。女性の逞しさと節操のなさは、たっぷりと見せつけられましたが・・。

2010/9