「全10巻シリーズ」の第9巻であり、物語は終息に向かってピッチをあげていきます。かつて太陽系文明の中心であった小惑星セレスがすでに太陽系を離脱していたということは、前巻『ジャイアント・アーク』で明らかになっています。では、いったいどこに向かっているのでしょう。そしてその目的は何なのでしょう。
セレスの地下世界を、遠宇宙の『メニー・メニー・シープ』と信じて生きてきた人類の生存者たちは、300年の眠りから覚めた「咀嚼者=救世軍」によって生存を脅かされたものの、新民主政府大統領のエランカの指導のもとで、反転攻勢に出ようとしています。しかし、闘いが唯一の道なのでしょうか。
一方で、この世界が成立した歴史をたどるため、セレスの地表に横たわるという宇宙船シェパード号を目指しているカドム(医師団)、イサリ(救世軍)、ラゴス(恋人たち)、ユレイン(総督)らは、戦死したと思われていたアクリラ(宇宙軍)と再会。セレス表面で活動を継続していた倫理兵器と接触した一団は、それが作られた動機を不審に思ったことから、別の道を模索することになります。それは、「咀嚼者=救世軍」と闘うのではなく、多様性を認め合って、和解を求める道にほかなりません。
本書の終章で、300年前に分かれた「ノルルスカイン=ダダー」の副意識流たちが再会。彼らの会話から、「オムニフロラ=ミスチフ」が派遣したと思しき先遣隊と「高度に発達した文明を有するカルミアン」が、宇宙的規模で壮絶な戦闘を行っていることが知らされます。そして、「ドロテア・ワット」を推進力として、ミスン族の母星「カルミア」に向かっていたセレスは、すでに戦いに巻き込まれているというのです。
セレスに生きる「ヒトであるヒトとないヒト」たちは、どのような生き方を選択するのか。そしてそれは、超宇宙的な時空で行われていた侵略行為に影響を与えることができるのか。かつてないスケールで展開される物語が、どのようなエンディングに向かっていくのか、次巻を待ちましょう。
2016/4