バスク人の著者によってバスク語で書かれた小説です。バスクの中心都市ビルバオからニューヨークへ向かうフライトの最中に思い浮かべた記憶が綴られていくというスタイルは、マイノリティ言語を用いて世界に向けて発信しようとする小説にふさわしいですね。
キルメン・ウリベなる主人公の回想は、祖父から三代に渡る家族の物語と、郷里の建築家や政治活動家や画家などと関わった彼らの人間関係から成り立っています。家族の年代記がバスク芸術や内戦時代のできごとと絡み合っているんですね。その様子はモザイクのようにも、魚網の目のようにも見えてきます。
漁師としてビスケー湾からスコットランド、アフリカ沖、カリブ海へと海を渡り歩いた父や叔父たちの思い出。祖父の船が「ドス・アミーゴス」と名づけられていた理由。バスク画家アウレリオ・アルテタの壁画に描かれた少女が若い頃の祖母だったという話。・・
はじめに「ゲルニカ」の製作を依頼されたアルテタが家族とすごす平穏な生活を望んでメキシコへ亡命したため、ピカソに持ち込まれたという秘話。フランコを熱狂的に迎えたバスク群衆の映像の正体は地元サッカーチームを応援する観衆の映像だったという話・・。
実在の人物を多数登場させながらも実話ともフィクションともつかないエピソードの群れは、著者が家族と故郷から巣立っていくために必要だったものなのかもしれません。漁師という家業を捨てて作家への道を歩むためにも、バスクから世界に飛び出していくためにも。
2013/3