りぼんの読書ノート

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コブラ(フレデリック・フォーサイス)

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南米コロンビアから流入するコカイン産業の撲滅を決意したアメリカ大統領は、「コブラ」の異名を持つ元CIA工作員のポール・デヴローに白紙委任状を与えます。冷戦を戦い抜き、9.11の直前にはビン・ラディンを追い詰めていたコブラは、かつて彼の前に立ちふさがったことのあるアヴェンジャー(復讐者)ことキャル・デクスターを仲間に迎えて、コカイン・カルテルとの戦争を開始。

前半は2人の緻密な戦闘準備が丁寧に描かれ、往年のオデッサ・ファイルを髣髴とさせてくれますし、中盤の「コカイン・カルテルに仕掛けた戦争」は痛快です。

輸送船を改造した船舶工を捉えて密輸船を特定し、麻薬のもたらす惨状に心を痛める神父たちを密告者に仕立て上げ、無人偵察機で上空から輸送機を割り出し、さらには天才ハッカーまで動員して見つけ出した大量輸送手段を無警告で攻撃。それを可能とすべく、カルテルをテロリストとみなすよう法令を改正し、海空軍を秘密基地に常備。一方では資金洗浄担当の弁護士を逮捕し、通関職員買収担当者の娘を逮捕させてボスを裏切らせるあたりは、どちらが法執行機関なのか考えてしまうほど。そして押収した麻薬を横流しして組織同士のいがみ合いを招き、内部抗争へと導くところまで組織を追い詰めるのですが・・。

フォーサイスさんのどの作品にも共通するのですが、「事実」を積み上げていく中にフィクションを紛れ込ませ、物語全体の信憑性を高めていく手法は健在ですね。徹底した取材を行っているのでしょうし、他のスパイ小説とは次元が違いますね。

ラストがちょっと残念でしたが、現実にコカインは撲滅されていないので仕方ないのでしょう。でも、この小説を参考にして「対コカイン戦争を起こせる」と思わされてしまうほどです。『戦争の犬たち』フォーサイス自身の試みではないかと言われたように・・。

2013/3