りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/10 世界を回せ(コラム・マッキャン)

宮部みゆきさんの新作を連続して読みました。2作ともいつも通り見事な構成の物語ですが、どちらにも東北の飢饉が登場するのは、大震災への著者の思いなのでしょう。今月1位とした『世界を回せ』もまた、大災害をテーマとした作品です。9.11の同時多発テロに一言も触れることなく、誰もが事件を思い出さざるをえない「絆」の物語であることは、宮部さんの作品とも共通しています。

須賀しのぶさんの『流血女神シリーズ』が佳境に入ってきました。ラノベでありながら独特の世界観を持つ楽しい作品です。

1.世界を回せ(コラム・マッキャン)
1974年にワールドトレードセンターのツインタワーの間で綱渡りをした男がいました。本書は、彼を見上げて視線を共有した者たちの間に生じた、人種、階層、貧富、年齢の差を越えた「絆」の物語。37年後に同じツインタワーを見上げることになった人たちの間には、どのような繋がりが生じたのでしょうか。それまで接点を持たなかった人たちが繋がり、過去と未来が繋がって、世界は回り続けていくのです。

2.桜ほうさら(宮部みゆき)
偽筆文書を証拠に汚名を着せられて切腹した武士の息子が、父親の汚名を晴らすべく奮闘する物語は、人が「書くこと」への根源的な問いに結びついていきます。手跡の違いはものを見る眼の違いであるなら、完璧な偽筆者とは他者の人格になりきれる者なのでしょうか。主人公の転機となる奥州飢饉のエピソードには、大震災と津波に対する著者の思いも込められているようです。いつもながら見事な構成です。

3.泣き童子 三島屋変調百物語事続(宮部みゆき)
「聞いて、聞き捨て。語って語り捨て」。叔父夫婦のもとに身を寄せた娘おちかが聞く怪異話シリーズの第3作。著者が「恋バナあり、怪獣ありのやりたい放題」と述べているのは、おちかが人の話を受け止められるほどに成長しきたからとのこと。人は怪異に遭わなければ幸なのか。遭っても凌げる力を持つほうが幸なのか。怪異話を知ることは凌ぐ力に結びつくのか。本書にも東北の飢饉の話が登場します。やはり底流には大震災への著者の思いがあるようです。



2013/10/30