りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

遠い朝の本たち(須賀敦子)

イメージ 1

須賀さんが少女時代から大学時代にかけて読んだ本について語った作品ですが、それだけではありません。彼女の精神を生涯に渡って導くことになった「本たち」を最晩年になって振り返った本書は、そのまま彼女の成長記となっているのです。

友人しげちゃんが貸してくれた『三銃士(デュマ)』、厳格な父が読むのを許してくれた『幼きものへ(島崎藤村)』、妹との二段ベッドで読んだ『新子供十字軍』や『ケティー物語(スザンナ・クーリッジ)』。やがて須賀さんの読書は、物語の面白さを追うことを超えていきます。

女性が知性の世界を開拓できることを教えてくれた『海からの贈り物(アン・リンドバーグ)』、原書で読む喜びを知った『星の王子様(テクジュペリ)』や『シエナの聖女カテリーナ(ヨルゲンセン)』。仲間うちで夜を徹して話しあったほどに強い衝撃を受けた『人間のしるし(クロード・モルガン)』。翻訳家になるに際して影響を受けた『即興詩人(森鴎外)』。そして文章の美しさを教えてくれたワーズワース、イェイツ、ハイネ、ブッセ、ダンヌンツィオらの詩人たち。

須賀さんは、本たちは人生のそれぞれの時期の思い出と結びついているだけでなく、「肉体の一部」となったと述べています。さらに「そういうことにならない読書は、根本的に不毛」とまで言い切ります。なんて苛烈な言葉! 単なる濫読者としては恥じ入るしかありませんが、この清冽さが須賀さんの魅力なのです。

『人間のしるし』を読んでみたくなって、図書館に予約を入れました。

2013/11