りぼんの読書ノート

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失踪者たちの画家(ポール・ラファージ)

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死んだ男が無限の都市をさまよう奇想天外な「序」で幕を開ける本書は、どこまでが幻想でどこからが物語なのか判然としない作品です。

都会に出てきた若者は、「絶望カメラ」で死者の写真を撮り続ける女性に恋をしますが、彼女は突然消え去ってしまいます。彼女を忘れられないままに失踪者たちの似顔絵を描く画家となった若者でしたが、警察に捕らえられて監獄へ。やがて潮が満ちて海に飲み込まれた監獄から脱出した若者は、女性の手がかりを求めて人形工場へ、裁判所へとたどり着くのですが、失踪者と都市の秘密は垣間見えただけ・・。

巨人の死体の上に築かれて、月を裁いた呪いを受けた都市という伝説には、信憑性があるのか。都市が海に飲み込まれたというのは革命のことだったのか。自動人形は失踪者たちの似姿なのか。全てが判然としないまま、物語は終わります。

カフカ『城』、オースターのガラスの街最後の物たちの国でミルハウザーマーティン・ドレスラーの夢などを髣髴とさせる作品ですが、オースターやミルハウザーを日本に紹介したのも、本書の訳者である柴田元幸さんでした。都市の迷宮性に挑戦するにしても、寄り添うにしても、極めて文学的なテーマであることに変わりはありません。

2013/11