りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/8 離陸(絲山秋子)

今月の読書リストを見返すと、「絲山秋子桜木紫乃西加奈子三浦しをん朝井まかて原田マハ、梶よう子、青山七恵島本理生桂望実」と、現代の女性作家の名前が目につきます。偶然なのですがせっかくなので、今月の1位はその中から選ばせていただきました。
1.離陸(絲山秋子)
村上春樹さんからのリクエストによる「女スパイもの」とのことですが、スパイ小説とは大きく異なる地点に着地しています。行方不明になったかつての恋人を探して欲しいと依頼された主人公は、遠い過去の文書に記された彼女の面影を発見するのですが、全ては謎のまま物語は終わります。しかし読者には、人生とは「離陸=死」の順番を待つ時間であるという主人公が至った境地とともに、滑走路に並んで離陸の順番を待つ旅客機のイメージが残されるのです。

2.ポーランドのボクサー(エドゥアルド・ハルフォン)
アウシュヴィッツを生き延びた祖父を持つグアテマラ人の著者は、モザイクのような短編で自らの人生を語り続けます。そこに詰まっているのは、祖父らが受けた迫害の歴史、ユダヤ教の狭量さ、文学の意味、エロティシズム・・。やはり長い迫害の歴史を持つジプシーのピアニストもまた、著者の分身なのでしょう。

3.霧(ウラル)桜木紫乃
北の町での女の生きざまを描き続けている著者が、またひとり、ニューヒロインを誕生させました。北方領土の帰趨に揺れる戦後の根室の有力企業の次女として生まれた珠生は、政治家の夫を通じて町を操ろうとする姉や、政略結婚という運命に抗おうともがく妹らと袂を分かち、亡き夫の跡を継いで「海峡の鬼」となる決意をするに至ります。続編を期待したい作品です。



2016/8/30