りぼんの読書ノート

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陽気なお葬式(リュドミラ・ウリツカヤ)

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1991年の夏、猛暑のニューヨークでひとりの亡命ロシア人が亡くなろうとしています。その男アーリクは売れない画家なのですが、亡命者という言葉から想像するような哀愁とは程遠い存在でした。明るく愛される人柄のせいで「故郷ごと、人生ごと移動し続けた」ような生涯をすごし、最後の瞬間にも「彼の人生はすべてここにある」ような状況になっているのです。

瀕死のアーリクのもとに集まったのは、美貌の持ち主ながら脆い性格で、宗教嫌いのアーリクにロシア正教の洗礼を受けさせたいと望む妻のニーナ。アメリカで苦学して弁護士になった元サーカス団員で、アーリクの初恋相手のイリーナ。15歳になるイリーナの娘で、アーリクには心を開く自閉症気味のマイカ。ゲイの男性と形式結婚してアメリカに移住しロシア語教師をしている、愛人のワレンチーナ。ニーナに頼まれてロシア式民間療法の薬草を処方するマリヤおばさん。そして、数多い友人たちや、牧師や、医者や、音楽家たち。

彼らは、アーリクとともに歩んだ人生の道のりを追想しながら、ウォッカを飲み、語り合い、おりしもテレビで報道される祖国のクーデターの様子をハラハラしながら見守りつつ、アーリクを看取るのです。そして、アーリクの葬儀の日に、思いがけない贈り物が届きます。

死を描きながらも、「不思議な祝祭感と幸福感」をもたらす作品です。亡命こそしなかったものの、旧ソ連の体制に反発し続け、近年の強権主義的なプーチン政権にも批判を高めている著者が望む「ロシアの姿」が、アーリクと彼を囲む多様な人々によって表現されているようです。

2016/9