前作で、チャーチルから第一次世界大戦前夜のアメリカに派遣されてドイツに味方する秘密結社の存在の暴露に成功した、ホームズの息子セバスチャンが、今度は革命前夜のロシアに乗り込みます。依頼主は、またもチャーチル。依頼内容は、革命機運の高まる帝政ロシアに、来るべき大戦を闘う能力があるのかの調査。
英露独三国のスパイや革命勢力が暗躍するサンクトペテルブルグで、ロシア議会の大立者ケレンスキーや、メンシェビキのスターリンとの接触に成功し、さらにはロシア人民の圧倒的な貧しさを眼の辺りにして革命機運の高まりを実感するセバスチャンでしたが、ロシアの弱体化を狙うドイツ・スパイや、ドイツと結託した怪僧ラスプーチンによって調査を阻まれてしまいます。
さらに、もうひとつ微妙な問題がからんでしまう。ロシア皇太子から直接、革命勃発時のイギリス亡命の可能性を打診されてしまうのです。ニコライ２世と姻戚関係にあった英国王室は、ロシア帝室の亡命を受け入れるのか・・。当時の欧州の複雑な政治状況が、スパイ小説にはおあつらえ向きの伏線となってますね。
前作と同様、ホームズはロンドンで情報を鋭く分析し、誰が味方で誰が敵かもわからない状況に追い込まれたセバスチャンを支援。ワトソンもマイクロフトも持ち味を発揮。でもこのシリーズは決して「ホームズ・パスティーシュ」ではありません。独立したスパイ小説として読むべきです。
プリンセス・オルガとのロマンスも気になるし（前作とは別のプリンセスですけど＾＾）、セバスチャンの宿敵となった感のあるドイツ・スパイとの決着もついていません。続編があるなら読みたいのですが、戦争が始まってしまっては古風な諜報活動が活躍する余地は少ないのかも知れません。
2008/12 帰国便にて
