りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

M・D(トマス・M・ディッシュ)

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歌の翼にのたった一冊で「私の心を撃ち抜いた」デイッシュの本を久しぶりに読みました。クリスマスの前日、6歳のビリーは幼稚園のシスターから「サンタクロースなどいない」と言われショックを受けますが、失意の少年の前に現れたのはサンタクロースならぬ、異教神マーキュリー。

ギリシャ神話で商業の神として名高いマーキュリー(ヘルメス)ですが、疫病の神でもあるとのこと。彼はビリーに、健康と病気に関する願いをかければ何でも叶う「カデューシアスの杖」を授けます。

しかしこの杖はビリーにとっての怖ろしい試練となるのです。試しにかけてみた呪いに偶然触れてしまい、生涯寝たきりになってしまった義兄。母が身ごもった胎児に長命の願いを授けたものの、生まれてきたのは、すぐに死ぬことだけが救いといわれる、おぞましいまでに奇形の弟(でも自然には死ねないのです)。やがてビリーは、健康の願いと病気の呪いがバランスしていないと杖の力が失われることを知ります。

どうして、この時点で杖を捨てないんだろうなぁ。長じてビリーは、悪疫を世界に撒き散らしては、自分で治療する万能の医師になるのですが・・。

この本はホラーのようです。自分の能力を超えた「力」を授かったものが、それをコントロールできなくなって世界に害毒を撒き散らし、やがて自分も滅びてしまう物語。類型的になりがちなストーリーを、皮肉に不気味に描ききったのが、デイッシュの個性であり、力量なのでしょう。ただ、名作歌の翼にを超えてはいませんね。

2008/12