りぼんの読書ノート

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脱出記(スラヴォニール・ラウイッツ)

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「シベリアからインドまで歩いた男たち」との副題があります。厳寒の北シベリアからバイカル湖を越えてモンゴルに入り、そこからゴビ砂漠を横断してチベットへ、さらに冬のヒマラヤを越えてインドに至る6500キロもの過酷な道のりを、1年以上かけて歩ききった男たちの物語。

ガイドも、お金も、装備も、食料も、医療品も、地図もなく、出会った人々の善意に頼り、偶然見つけたオアシスや、砂漠で捕獲した蛇などで生き延びたという、とてつもない旅。彼らは、なぜそのような無謀な旅に出なければならなかったのか。それは、それが唯一の生き延びる道だったから・・。

1940年。第二次世界大戦の最中、無実にもかかわらずソ連に対する反逆罪で逮捕され、苛烈な尋問と拷問の末に、シベリアでの25年の強制労働を課せられたポーランド軍人は、6人の仲間とともに強制収容所を脱出します。西のウラルへ向かう道は見張りが厳しく、東のカムチャッカ方面も厳戒態勢。残るのは南に向かうルートのみ。インド駐留のイギリス軍と出会うことに賭けたのです。

実話です。著者が、実体験を綴ったものなのです。しかも、やはり別の強制収容所から逃げ出してきた17歳のポーランド人の少女までもが途中で一行に加わるのです。まるで映画のようですが、メンバーを元気付け、女神のように大切に扱われた少女の運命は果たして・・。

壮絶です。極限などと言うもおろか。読んでる途中で、「彼らにもう、これ以上の試練を与えないでください」と祈りたくなるほど。でも、最後には静かな感動が待っています。(「脱出記」ですので脱出できた人はいるのです)

余談ですが、一時代前のモンゴルやチベットの人々の素朴な生活と純朴な人柄に触れた部分は、はからずも、紀行記としても貴重な記録になったように思えます。

2008/12 機中にて