りぼんの読書ノート

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コペルニクス博士(ジョン・バンヴィル)

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久しぶりにバンヴィルを思い出しました。本書はコペルニクスの生涯と作品についての小説ですが、もちろん伝記ではありません。後のケプラーの憂鬱と同様に、黎明期の天文学者が、当時科学を支配していた宗教と、内面的にも対外的にも、どう折り合いをつけたのかというテーマを綴った本です。そしてそのテーマは、意外と現代的でした。

死の直前に刊行された『天球の回転について』は、従来から存在していた地動説に対してはじめて理論的な裏づけを与えた本でした。プトレマイオスの天動説では証明できなかった惑星運動を説明するには、太陽を巡る周回運動という概念が必要だったのです。

では彼は異端の批判を恐れずに、真実を探求する者だったのでしょうか。著者はコペルニクスを、むしろ小心な体制派として描いています。教会との対立を恐れて著書の出版を認めず、ようやく出版した際にも神を冒涜するものではないことを卑屈なまでに言い訳を書き連ねて、出版に尽力したレーティクスなどの改革派と徹底的に距離を置こうとした態度などは、それを裏づけるものなのでしょう。確かにコペルニクスは宗教裁判も免れて天寿を全うしていますし、『天球の回転について』は後のガリレイ裁判の際にも一時的に閲覧停止となっただけで、禁書とはならなかったのです。

しかし、彼が真に恐れていたのは「神との対立」ではなく「無限と対峙する怖ろしさ」ではなかったかというのが著者の趣旨のようです。地動説の先に必然的に姿を現すものは、無限の宇宙なのでしょうから・・。

最終章、朦朧とする意識の中で、業病で死んだ反面教師的な兄と和解し、彼が保護して醜聞となった血縁の女性に愛情を感じたくだりは、一種の「救い」として描かれます。著者は、「無限と対峙する恐怖」を乗り越えるものは「愛」と言いたかったのかもしれない・・などというと、ロマンティックな視点からの「読みすぎ」なのでしょうけどね。^^;

2008/12